צא

دمنهور - 𝑆ℎ𝑖𝑧𝑢𝑜𝑘𝑎 | 𝐻𝑒𝑟𝑚𝑒𝑠 𝑇𝑟𝑖𝑠𝑚𝑒𝑔𝑖𝑠𝑡𝑢𝑠(933311) | Ramakrishna | 𝐑𝐀 | 1991.03/19 | JAPON ♎︎

【正四角形の輝き】

花が咲いていた。正四角形の4×4に等分されたブロックが規則に従って、鮮やかな弧を描き、流れるように。花が咲いた。
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太陽を見つめる金髪の外国人。裸で庭を歩き、生垣に刺したコルビュジエの標識めがけ石を投げた。
「エアロビクス」そう呟いたのは、彼が性愛のうすい層雲の上に経血を置いたからだ。集約語。
(磔刑の絵を開くとロスアンゼルスハンバーガー店に出る?)
真夏であるのにやけに涼しい日。
まだ庭に彼がいる内にトム・ギボジェイシュはスポーツカーの裁断の仕事を終える必要があった。
道具箱の後ろでは上司が女とヤッていた。
ここで時間が静止したのはLAのキッソ・バーガーで働きたての女がピクルスを入れ忘れたからである。
工場や、庭や、あるいは天体の上にも赤い光が降った。粘性を伴ったその赤い鉛が、それぞれの頭上に落ちていき大きな穴をあけた。
時間が進み出すには、この地域の肥満人がその支えられている低反発のクッションに顔を埋めている必要があった。
例外なく、連中は禿げ上がっていて、残った旋毛のうねりが強度と短小性をこちらへ示している。
「慎重にこいつらのイメージを接合し、統制する」
そんな必要はなかった。なんたって閃光が赤いんだ。
グリッドの範囲はせまくて、肥満人それぞれのイメージに振れ幅があったとしても協調性がある。
ただ一つ、彼らが眠る事だけが条件だ。
(キッソ・バーガーの店内は空きはじめていた)
トム・ギボジェイシュは身動きがとれない中、背中の方でイカ臭いにおいを旋回させていた。
ここで説明すると彼は、昔のマネキンのような濃淡のクリーム色をしていて目をかっ開いている。
後ろに回ってみるが背中で回転しているらしきものは別に見当たらない。
そのまま進んで上司と女を観察する。上司の歯が汚い。女は腹に段をつくっている。特に目立つところもない。
それでまた彼のところまで戻ろうとした拍子に、道具箱を蹴飛ばした。それがとんでもない事になるとは思いもよらなかった。

結果的にはトム・ギボジェイシュは庭に彼がまだいる内に間に合った。裁断の仕事は中番の弟に任せて、切り上げてきた。
「とんだ奇妙な光景だな」とトム。
標識の周りには、まさに散らばっていると判断するに十分な石の数がある。
何個投げたんだ?と聞いてしまったのは、コルビュジエの建物によるものかもしれない。
彼は「分からない」と答えた。
「さあ仕度をしてくれ。今日は神父のとこでバザーがある。車を出しとくよ」
標識までの歩数をしっかり数えて、突き当たるその角木に足をぶつけた。
それで彼はジッとコルビュジエの建物を見つめてから、舌を出して光合成をした。

実際にはただ眠っているだけの肥満人である。31、13、31人の3グループ、2階調に分かれた連中はその愛好するスナック菓子への愛着をよそに、とても美意識の高い仕事を夢の中でしていた。
まるでコアの内部の暗い世界で必死にブロックを押して運んでいるようだった。
銀色の裸、手足の長い均整のとれた容姿である。
渦が飲まれていくように、4×4のブロックは中央に集まっていき、そして光がそこに射すはずだった。
正四角形は完成されてるのにも関わらず、永延に周知されなかったのだ。

キッソ・バーガーでの仕事を終えた女は通用口から出ると赤いスポーツカーに乗って高速へ向かった。午前中は晴れていた。しかし昼下がりになって雲行きは怪しくなった。
インター手前の信号で停止し、口紅を塗り直してるところだった。
激しい振動に伴って車内から放り出されたのだ。衝突してきたのは黒いスポーツカーであった。
そのまま横断歩道のところまで転がっていった女。
痙攣を抑えながらトム・ギボジェイシュはそこへたどり着くと、女の心臓に手を当ててこう言った。
「俺も途中から異変に気がついた。車内に入って重い空気を感じたんだ。それはとても科学的なもので精神的な危機に満ちていた。だけどすぐに神父のところまで行くし、そのまま走り出した」
女は即死していた。
この交通事故を目撃するものは多数いたが、彼らは車から出ようとはしなかったし、通行人も寄ってはこなかった。
それだけ奇妙がゆえのスマートな光景だった。
トム・ギボジェイシュは精気を失っていたが、よろよろと車へ戻るときも轢かれる事はなかった。
車は安全に彼を避けたし、何よりも全体が牧歌的だった。
車内に戻ったあとは、そのままシートを倒して目を瞑った。
助手席の彼は、心臓発作で死んでいた。

中番の仕事を終えて、道具箱を元に戻すとキッソ・バーガーまで歩きで行った。
「今日はないぞ。さっきお前の兄貴がすごい顔をして持っていっちまった。それより今朝に変な夢を見た。それから何かまともに生きようって気になったんだよ」
「じゃあここをやめるって事かい。集会のお前のお仲間も悲しむだろうよ。炭酸水でいい」
サーバーからグラスへ注がれる、その水は綺麗に七分で収まった。
「これから行くところだ。もうお前との恒例の挨拶もなくなるだろうよ」
「75人の肥満人」声が揃った。
彼は勢いよくハンバーガーをほおばった。

集会では前代未聞の夢の話で持ちきりだった。
共通の夢を見ていたらしい。この場では誰もダイエットの困難さなど語り合ったりはしなかった。それどころか皆が前向きだった。そこに一人が唐突に立ち上がって、別の夢を見たと話し出した。また、それを絵に描いてきたというので皆に見せて回った。しかし彼らはあまり関心がないようだった。

そんな経緯で、この磔刑の絵は神父に引き取られバザーに売り出されている。

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