צא

دمنهور - 𝑆ℎ𝑖𝑧𝑢𝑜𝑘𝑎 | 𝐻𝑒𝑟𝑚𝑒𝑠 𝑇𝑟𝑖𝑠𝑚𝑒𝑔𝑖𝑠𝑡𝑢𝑠(933311) | Ramakrishna | 𝐑𝐀 | 1991.03/19 | JAPON ♎︎

「性の受肉に失敗した男」

f:id:dlru_eiim:20190827053428j:image

サイバーコアのレーン上で十字架の穴ぼこが間隔的に置かれている。太陽は充分にグリーンリーフを育てて三日月の曲線だけがここでは違和感がある。
集団デモの旗にはブロッコリーのシンボルが描かれていて男は彼らの行進が滞らないか心配だった。
男はジムに通おうか迷っていた。天井には自分で描いた海の絵があり、男の裸と対称性をもった。
何かよく分からない事を話しているのは音楽がかかっているからである。
しかし男の話型と音楽には何の相関性もなくどちらかといえば環境による抑圧が男をそうさせてるように見えた。
ジバンシー・レディの子宮コンポジットを支配する神に多様性がない」
終わりかけだけが聞き取れた。
突然、大きな鳥が窓ガラスに激突して死んだ。
男はその出来事に何の予兆も感じなかった。
それで一度フォークを握る。
太陽に顔を見せる純粋さもここでは無力で、しかしそれが沈む事には焦りを感じている。
夕方になるまでには鳥の死体を看取らねばという気持ちになった。
そうして庭に出て死体を確認してみるが、まったく物にしか感じられなかった。
ところで男は優良な家庭環境に育ち、両親とは関係が良好。
また男には何か精神的な問題もなかった。いや問題がないのでかえって異常性を孕んでるとは言えた。
それもこれも男に性経験がないためである。
「もう南西の方角に行ったわね」と母。
ブロッコリーのデモ行進の事である。
「それで?」と男。
「あなたは私らの直接的な受精によって生まれたわけでもないんだし、何でもしたらいいと思うわ。私があなたを生んだのは何かよく分からない体の底からの衝動よ。私はそれに嫌悪があった。突き動かされる事はあり得なかった。だけどその衝動を体から根絶したかった。それだけのことよ」
男は言葉に何の兆しも感じなかった。
しかし性経験は大きな命題だった。
「では私の中にある母親の観念を取り除いてほしい」と男。
「それは彼とヤるしかないわ」

健康器具の組み立てが奇妙に失敗している。それが組み伏せた裸の男女のように見える。
タイムゾーンは昼で、今まさにアイスフェスティバルが開催中の模様だ。
アイスフェスティバルと役員が拡声器で人々を煽る。
人々は手押し車から出される色々なアイスを受け取ってはその場で食べている。
役員は中年のごく普通のおっさんで、かれこれ「アイスフェスティバル」しか口に出していなかった。
また人々もアイスしか口にしていなかった。
美しいほどこのイベントは時間通りに終わった。
また会場を去ってから人々は珍事に見舞われた。死者も多数出た。それでも警察は適宜に処理をしたし、ニュースにはなっても人々の見識は広く聡明であった。

0公園。少年が熱中するアニメの物真似をしている。男は感心していた。また性徴も感じていた。そして男は映画のワンシーンを再現しはじめた。噴水に赴き、裸になり、髪をかきあげた。
そこへ歩み寄る女がいた。男は好機に神の寵愛を感じたがこの女が自分を変える事がないのは分かっていた。
その困惑が体に伝わって男は会話中に狼狽してしまった。そして苛立ちを女にぶつけるのであるが、それが女を魅了する事になってしまった。
結果的には円満に収まり二人はホテルに向かった。
少年は公衆便所でエロ本とその上の人糞を見つけた。

古代の儀式のリアリティ。それが現代である頃の人々のローカルな仕草。我々はそこに共感を見出すべきだしそのためにはやはりどこか頭がおかしくてはならない。あるいは?
すっかり一人前になった男が壇上に上がりスピーチをする。
「大事なのは土地の移動です。なぜなら思考とは土地の反映だからです。思考とは移動のベクトルにあります。私はあなた方のより良い人生を願っています。そのために私から出来ることがこの製品に詰まっています。従来のスマホは人々の生活への普及が目的であった。つまり多売しなければならずデザインが真なる意味で追い求められなかった。均等値としてのデザインという事です。車も同様にです。私は長年、教会に惹きつけられてきました。また精神的な問題もありました。そんな時ふと辿り着いたのが信仰と実用性の融合でした。この製品はもはや製品ではない。作品である。国民一人一人が手でもつことのできる象徴なのです。しかしスマホなのです。あなたにより良い人生がある事を」

スピーチを終えると男はポケットから製品を取り出して観衆へ掲げた。それは球体と長方形の中間の形をとっており一見して金塊のようである。背面にはリサイクルマークを模した交差の矢が印されている。プロジェクターから壁に照射されるマグマの光景は男の顔を翳らせて人間ならざる顔をしていた。