צא

دمنهور - 𝑆ℎ𝑖𝑧𝑢𝑜𝑘𝑎 | 𝐻𝑒𝑟𝑚𝑒𝑠 𝑇𝑟𝑖𝑠𝑚𝑒𝑔𝑖𝑠𝑡𝑢𝑠(933311) | Ramakrishna | 𝐑𝐀 | 1991.03/19 | JAPON ♎︎

「観測者がいない世界にとって観念がいかなるものであれ神である」

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そいつが悲しんでいる繭のすぐそばでゴシックミュージックが鳴っていた。太陽は磁気ネックレスの留め具に刺されて部屋のアクセントに助かった。

暗い部屋。床はワックスで磨きたてで透明の筒型のレーンが幾つか並んでいる。男は明晰夢で参入しているのだが別人のような目まいを体験。それが合図となって筒の中に炎が走った。突如、部屋は明るくなってサーカスのイメージが広がる。
「これを相殺させるにはどうしたらいいんだ」
男は柔らかい感じが嫌いだった。
企図する最中にもその催しは勢いに増して展開している。
また目まいが起こって卒倒。男がその場に倒れるのが答えなわけだ。サーカスは矮小化して永延に小さくなった。

ミラーリング。大雨の大通りで女性が告白に失敗した。縦に並ぶその光景が槍で貫かれる。散らばった硝子は六芒星を結び、彼女と彼女の間から血飛沫が湧き上がっている。とはいえ原始的な感じでこちらに庶民的な印象を与えている。
買い物帰りの青年の袋から光が溢れている。それは100均の壁掛け時計だった。青年がこの道を通った事に意味があった。

アジア諸国を二つ折りに、ヨーロッパ諸国を三つ折りにしたところのアメリカ。ミミズの蠕動かナマコのようなその前へ倒れる腹這いが銃口に自ら急所を差し出した。引鉄はなく、しかし弾は撃たれた。大陸と海だけになった物質世界が神秘的にならないのは金髪のウィッグがそこら一辺を覆い尽くしていたからだ。太陽と月だけが周回してそれがかえって人為的に感じられた。

田舎のショッピングセンターの売り切り品として販売されるVRゴーグルはこの店舗の経済難を表すようにぬるい風を浴び続けていた。ゴム素地から先ずは腐食が進んでそれがプラスチック部に及んだ。より値引き額に見合った変化を遂げてから売れていった。すでにモニターはメニュー画面で購入者はソファーに座りながら装着をした。締め付けが気になったが彼は廉価だった事に気分を落とし込んだ。ヴァーチャルリアリティを楽しんだのは数分だけだった。魂がむき出しになって、街へ繰り出したからだ。それでも法を犯す事がなかったところに彼の出自が見えるだろう。VRゴーグルは物理的に生体作用を引き起こして思考を止めていた。それが間接的に松果体を刺激する事になった。彼は出がけのまま社会に揉まれる道を辿り結果的に世の中を変えた。モニターは親類によって停止されるまで3Dのセックスを映し出していた。

終末というのはいつも何者かが死んで終わる。それから決まって安全な存在が登場し両手を広げて講釈を始めるのである。白髪の?スーツの?皺だらけの?(必ず性別は男である)とにかく例えばこんな感じだ。
「ようこそ皆さん。私がこれから話すのを聞くという事は確かに存在している証拠だ。君達は生き残っている。なぜ生き残っているか。それは君達が何も世の中に参加しようとしなかったからだ。そして君達の意志で生殖をしてこなかったからだ。君達は一切の力を所有しなかった。突き動かされなかった。信仰心も斥けた。本当に洗練されている。しかしこれから君達が救われるというわけでもない。これからどこか別の星に行く事もない。ところで私には権力と運だけがあった。そして親から尊厳を奪われてきた。それが取り戻せないまま社会的にのし上がってきた。私は死ぬ前にこのくだらない異物を取り除きたい。それが君達との対話でこの機会の唯一の目的だ。」

大自然の営みよりも姦(かしま)しいこのシェルターで交わされる対話は一方的なもので、生き残った者は老人に対する相槌に疲れていた。そして次第に精彩を欠いていき、彼らの洗練さが苛立ちに変わって事態が一転する。素手で男を殺すと全員が狂死したのだ。というのも大自然にも霊界にも勝(まさ)って彼らは自らを低める事ができなかった。