צא

دمنهور - 𝑆ℎ𝑖𝑧𝑢𝑜𝑘𝑎 | 𝐻𝑒𝑟𝑚𝑒𝑠 𝑇𝑟𝑖𝑠𝑚𝑒𝑔𝑖𝑠𝑡𝑢𝑠(933311) | Ramakrishna | 𝐑𝐀 | 1991.03/19 | JAPON ♎︎

「令和#3」

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ーバイオダイナミック走法による双方向性の流通が実現したのはつい最近の事ですー

手羽先とは女性の肢体を逆開きにしたブロンズ像である。強い風。雨足が強まるにつれこの粒一つずつが四角形になる事。

「外見の話をすれば4DDというものが今は主流です。しかし人間の規格で作られていないこの産物に恩恵はないです。弊社ではあくまでも3DDでその交流において技術を費やしてきました」

ネットワークの支流全域を人間の神経系に同期する事。それはどのような変性をもたらすのか。やはり死んでしまうのか。吊るされた家畜のように体と精神をつないでおく事が重要なのだ。

キリスト、一つのネットワーク。

三段式の重金メッキから伸びるコードはマントル・コアを刺すばかりの硬性を帯びていた。

「音質は良いですよ。しかし音質ではなく音がどこを出自としているのかについて追求しています。たとえば2tトラックが通る。それは車が道路を走っている事を示唆しますよね。しかしこの製品は運転者に関する特定あるいはその走行音が何によって生じたかといった空間性や地図的な次元にまで言及しています。」

壁掛けのドイツ構成主義調の絵画に呆然としながら彼は手に取るよう促されたイヤホンを両耳に押し込んだ。
またイヤホンが取られるまで会場はその静謐さによって店員を生物学的に熱状態のようにしていた。そして彼は立ち上がって歩き始めた。

記載項には「特になし」とだけ書かれ、ただ彼の本名だけが知る事のできる情報だった。
また製品の特色上、この体験は一人ずつのみに限られており、会場全体が彼の様子を見守っていた。

視聴には環境音楽が選択されていた。彼は壁をなぞって一周し、中央にきて話し始めた。

「中古の商品というのはいわば登記の手続き中である。ともすれば前登記の当該者は宙をさまよっている事になる。登記手続き後の当該者と対面するわけではないからだ。またその登記者もその中古品の前登記を知らない。知っているのは商品の状態とブランドだけだ。つまり商品における登記とは本来的に生産者とその指示者との間だけに発生するものであり消費者は永遠に商品を所有する事はない。二重の登記というのはないからだ。だから我々は利用しているにすぎない。しかし陰茎はどうだ。受精はどうだろうか。利用だろうか。違う。なにも商品との受精が可能であるという事が言いたいのではない。ただ人間が単なる物質になってしまえさえすればそれが扱われる物という限りにおいて達成しているという事が言いたいのだ。私がなぜこのような事を話しているのか。それは鉱物の起源にまで遡っているからだよ。我々はなぜ土地によって記憶を思い出すのか。それはその土地に射精しているからだ。だから思い出すのだ。諸氏のストレージを別のデバイスに移行するのを想像してほしい。これは少なからず物質と生命を同質的にみるところの生殖に対して間接的に関わっている行為だ。諸氏がタッパーに精子を入れる。そして街中に置く。誰かがその中に卵子を放り込む。そういう事なのだよ」

重い扉が開かれると、その先には視聴体験待ちの女性が倒れていた。店員らは受付を押し戻し再度、扉を閉めた。

そして衣類を脱ぎ、拍手喝采で彼に視線を送った。彼は話し続けるのを止めなかった。

再生機の上には浅黒い肌をした現代音楽家の顔が投げ出されていた。