צא

دمنهور - 𝑆ℎ𝑖𝑧𝑢𝑜𝑘𝑎 | 𝐻𝑒𝑟𝑚𝑒𝑠 𝑇𝑟𝑖𝑠𝑚𝑒𝑔𝑖𝑠𝑡𝑢𝑠(933311) | Ramakrishna | 𝐑𝐀 | 1991.03/19 | JAPON ♎︎

【令和#7】

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「古代の魔術祭とシンクロする現代のたこ焼きパーティー。タコパガンダにより促進されるその粉物の球体とはまさしく天体を食す契機だったんだ」

エアポートの待合椅子は清冽としており冬の厳しさがより一層、窓の色を変えるようだった。
こんな時でさえ彼のめくる本の挿絵が現実感を寄せ集めている。
150°の対角線を結んだのは掃除婦とセックスをする一組だった。
地方のこのエアポートは長い間、飛行停止を余儀なくされており、中心地の天災によるこの事態は極少数の人々を隔離し、そして景観化させていた。

ブロンズ髪の少年二人がきゃっきゃとしてゲート使用のベルトを自らの腹部に巻きつけて引っ張り合っている。明け方にも関わらず夕方のように感じられるのは電球が切れかかっていたからだ。
「外は青いな」
一人の男がそう言った。彼は寒いので外の様子を確認したくないのだ。もう昼だった。
空港内に勤めるウェイターは立ちションをしながらぼんやりと絵画を見つめていた。
それは石板に押し潰される牛の絵だった。
尿道も単なる蛇口のようだ」
ウェイターはそう言った。
男が入ってきた。ウェイターは右端でしており男は左端に立った。
「外が青いよ」と男。
「この絵を見てくれ。この絵の石板が俺から血を奪い去っている。なぜならここで足止めを食らうお前らの自由気ままさといったらまさにこの牛だ。俺はこの絵を見て血の必要性を感じている」とウェイターが言うと男は絵を見つめながらこう返した。
「あんたは馬鹿だよ。これは絵だよ。でも自分の事のように感じている。それは馬鹿騒ぎする子供がそうさせてるんだろう。なぜなら我々は大人だが、大人の我々の関係性を無関係にしてるのはその間に原始性があるからだ。お前さんは子供に対してどのような価値観をもっているんだ」
「子供はなんとも思わないな。本当に何の関心もない。大人になる事も人間である事も分かってはいるが、今そのようにして存在するものに対してどういった態度を持てばいいのかも分からないし一切の感慨もない」とウェイター。
「女に対してはどう思うんだ。多分その調子だと理想が高いだろう。でもお前さんの面を見るとウブなわけでもない。むしろその理想を引き寄せる性質(タチ)だ。あんた空港勤めじゃなくて魔術師が向いてるよ。良い目をしている。何が足りないかっていうとおそらく全て足りているからだろう。どこか一つ欠けてみると自分の本分がよく分かるだろう」と男が言うとウェイターはこう返した。
「どこを欠けさせたらいいんだい。皆目検討がつかないよ。あんたはどのようにしてそうなったんだ。上手く言えないがとても充実してるように見える。俺も充実してるとは言えるがもっと根本的なところにたどり着いてない。いやたどり着けないような幸運が煩わしく感じるんだ」

男はウェイターの顔を掴み、白目を剥いた。呆気に取られた彼は手荒に男を退けた。そして激しく感情を露わにすると男をぶん殴った。馬乗りになり男に対して唾を吐いた。その間、男はずっとそれを受け入れておりちょうどいいところで「もう十分だ」と言った。彼をひっくり返すと男は満足そうに鼻をならした。彼は不機嫌な顔をして立ち去る男を見つめていた。

待合椅子には脂のような臭いが充満していた。窓ガラスを挟んで火と水が争うような感じだった。
肥った中年女はポーチから錠剤を出すと飲み終わりのミネラルウォーターで流した。
ブロンズ髪の二人は疲れ切ってその場で寝ていた。
セックス終わりの二人の話し声だけが響いており、トイレから出てすぐの所で男はそれを聞いていた。
ウェイターは肩で風を切るようにして男を追い越した。生まれ変わったのだ。
男はカップルのそばに行くと女にキスをした。お前は古い流れだ、と言うと彼氏を羽交い締めにし、自らの陰茎を肛門に挿した。
「ヘペテ」と彼女は叫んで男を止めようと必死だ。
すると男は一度、陰茎を抜くと女を思いっきりぶん投げた。
彼氏が叫び返す間もなく女はフェルト生地の絨毯に叩きつけられた。それは骨折を表していた。
男は形式主義だった。もうヘペテの肛門に挿入する事はなかった。
駆け寄ってきた警備員は事態を察知し、男を別のところへ連れて行こうとするのだが彼の持ち前の挑発に乗ると血だらけの顔に更に拳を叩いた。
異様な空気を見にまとう彼はウェイターと目が合うとよろよろとゲートに近づいた。
巻きつけたまま寝ている二人の腹部のベルトを持ち上げ、そして倒れた。
ウェイターはピラミッドの成り立ちを想起した。

ーーーーーー
「牛乳により浸水した中で行われるランウェイ。水中カメラがそれを押さえてストリーミング配信が行われる。ミルメーションという文化だ」

この神秘的な秩序形成を変動させるパターンが二通り考えられた。
1.天災
2.運転再開
そしてこの二通りのどちらもが再現された。

まず地震が起こった。それは間欠的なもので一瞬、窓が撓(たわ)んだ。こんな時でさえ彼は本を読んでいる。その後、激しい揺れが起こって建物は半壊した。天上が綺麗に抜けて、待合椅子の半分が文字通り無くなってしまった。彼は咄嗟の判断で生き延びるのだがそれが地震ではなくフェニックスの墜落だとまだ錯覚している。

中心地のエアポート運行が再開した直後の事であり、この出来事とは無関係にアナウンスは夕刻の便からの通常運転の再開を告げた。夕陽が差してきた。